《MUMEI》

「それなら、会わせても大丈夫だな?」

乙矢がカーテンを開くと、安西が居た。


「……もう、会わないつもりだったんです。」

言い訳でもしているようだ、安西はきょどったまま座れずにいたので乙矢に椅子を出されやっと、落ち着いた。


「七生から事情は聞いてるから。俺は空気だと思ってくれればいい。」

なんて威圧感のある空気なのだろう。
息が詰まる……。


「怪我の経過?」

安西の顔半分を大きな湿布が占めている。目線も合わせずに頷かれた。
俺も、安西の暗闇に光る瞳孔を思い出して身震いしそうになり、踏ん張る。


「正直、まだ把握していないのだけれど、怖かった、怖かったよ……俺には安西のことこれっぽっちも理解できて無いみたいで怖かったんだ……。」

安西が何か言いたそうに動くが、ぴたりと静止した。


「弱くてごめんな。」

誰も助けられない。


「本当は助けて欲しかった訳じゃない……先輩の方がウチ先輩を呼んでいた。
汚いものを殺したかった。けれど、先輩と居ると余計に汚さが際だって嫌になる、だから……」

言葉は時に刃物ように鋭利で、刔り出すのは忘れかけた傷口だった。


「ごめん……。」

肩の傷を押さえる。


「俺にはわかりますよ……ウチ先輩に俺と同じことされたら嬉しかったんでしょう?」

安西は膝を何度も何度も引っ掻いている。
俺は何処も見たくなくて、結局は目を閉じるしか無かった。


「ごめんなさい……!ごめんなさい!」

何度も謝った。


「謝罪なんて止めてください、俺は悪者ですから。」

カーテンを掻き毟るように安西は飛び出して行った。

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