《MUMEI》 . 義仲は腹を抱えてひとしきり笑ってから、まぁいいや!と明るく言った。 「璃子ちゃんが、そう言うなら」 義仲は、フワリとほほ笑む。 その表情の美しさに、わたしはつい、見とれてしまった。 彼は、わたしから目を逸らすと、アンドウを見て合図を送った。アンドウは黙って頷き、開きっぱなしだったドアを、静かに閉めて、運転席に乗り込むと、アクセルをふかした。 わたしがぼんやり立っていると、後部座席のパワーウインドウが、低い機械音を鳴らしながら、ゆっくり下降する。 開いた窓から、義仲が顔を覗かせて、言った。 「じゃあ、また学校でな」 わたしが頷くと、義仲は正面を向き、出して、と呟いた。その声のあと、彼を載せたベンツがゆっくりと発進し、闇の中へだんだん消えていった。 車が見えなくなってからも、わたしはそこに立ち尽くしていた………。 ****** −−−このとき、わたしは気づかなかった。 わたしの背後で、 だれかが 義仲との、そのやり取りを見ていたことに………。 . 前へ |次へ |
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