《MUMEI》
彼氏
「で、でも、幽霊ならどうして皆に見えるんだ?そういうもんなのか?」

「普段は自分の身体に入って行動していたの。死体だけど、腐敗しないように薬品を注射しておいたから、何とかなったわ。殺すときは、気付かれないために霊体だったけどね」

「そんなことが、できるのかよ」

「実際できてるでしょ?…私が死んだことは身内の人間しか知らないのよ。お父様が世間に知られるのを嫌がったんだわ。お父様は、有名な会社の社長だから。結局、お父様も私のことは愛していなかったのね」

「柊…」




柊はとても悲しそうな顔で話していた。彼女に対する同情心が生まれてくる。そして、全てを知りたいと思った。




「柊は、その…、あの男達に殺されたの、か?」

「えぇ。あの中の一人はね、私の彼氏だったの。でもね、あの人は私のことなんて少しも愛してくれていなかったのよ。私の家は金持ちだったから、それが目当てだったのね。その事に気付いた私は、別れを申し出た」

「………」

「でも彼は、'そんなの許さない。俺に逆らうな'って、仲間をよんで脅したの。…そして、脅されているところにあんた達が来た。でも、助けを求める声を無視して、あんた達は逃げた。…その直ぐ後よ。泣き叫ぶ私に手を付けられなくなった彼らが、散々殴った後にナイフで胸を一突きして私を殺したのは…」

「そんな…っ」






信じられなかった。ずっと信じていた彼氏に裏切られて、脅されて…


助けを呼ぶ手段もなく、通りかかった俺達にも見捨てられて

死んだ後にも報われなくて
誰にも愛されなくて…

柊は一人、何を思って死んだんだ?

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