《MUMEI》 3.3. 徹「旦那は大丈夫か?気がつかれなかったか?」 浦道 徹(ウラミチ トオル)52歳。大手建設会社の社長。妻と2人の女の子がいる。かなりの大金持ちだが婿養子である。 真理「会ってすぐにバカ男の話?」 徹「いやいや、悪かった。君の事が心配だから…」 真理「バカ男は大丈夫よ。朝からバカ男の話は止めて。気分が悪くなるわ。」 徹「…すまない。まぁ機嫌を直してくれよ。今日は君にイイ物を持ってきたんだ。」 真理「いい物?何?奥さんとの離婚届けとか?」 徹「おいおい。『離婚届け』って、ブラックジョークか?…勘弁してくれよ。妻とは、いずれ離婚するけど…もう少し待ってくれ。君が好きな物だよ。」 真理「何?」 徹「後部座席に袋があるだろ。それを取ってごらん。」 真理「あっ、うん。」 真理は黒い紙袋から赤いリボンのついた箱を取り出した。 真理「開けていい?」 徹「もちろん。君へのプレゼントだよ。」 真理は箱を開けて笑顔になった。 真理「うわ〜!これ私が大好きなグッチチの限定200個のバッグじゃない?どーしたの?どーやって手に入れたの?本当にいいの?すごーい!すごーい!」 真理は目を輝かせて子供のように喜んだ。 徹「手に入れるのが大変だったよ。あっちこっちに手を回して、やっと入手したんだ。」 真理「本当に有り難う。でも、これ高かったでしょ?まぁアナタには小銭でしょうけど。」 真理はイタズラっぽく茶化した。 徹「バカ言え、200個限定で1個が300万もするバッグが小銭の訳ないだろ。バッグ1つで車が買える。」 真理「ふ〜ん。じゃあ、この車はいくらしたの?」 徹「この車か?…この車は2500万だったかな…」 真理「車1台で何が買えるかしら?」 徹「分かった、分かった。300万なんて小銭だよ。それより朝は食べてきたのか?」 真理「朝は少しだけ食べてきたけど…」 徹「喫茶店でも入って食べるか?」 真理「喫茶店?…あんまり他の人と顔を会わせたくないんだけど…」 徹「そうだな。誰か知り合いにでも見られたらマズイからな。それじゃあホテルでルームサービスを頼む事にしよう。」 真理「うん。じゃあ次の信号を左に曲がりましょ。」 徹「今日は夜まで平気なんだろ?」 真理「夜まではダメよ。夕方には帰らないと…」 徹「なんだ。夕方には帰るのか…まぁ仕方ないな。」 車はホテルの地下駐車場へと消えて行った。 丈 はホテルのロビーのソファーに座って新聞を読むフリをしていた。 新聞で顔を隠しながら息を切らし汗をダラダラかいていた。 真っ赤なスポーツカーが向かって行く方向には何もなかった。 だとしたら、このホテルしかない!と思った。 光駅の周辺は少しは栄えているものの、都心から離れているし観光するような場所もない。 ここ最近、出来たニュータウンなのでラブホテルすらない。 高そうなスポーツカーを乗り回すようなやつが行くなら、このグランドピアノホテルしかないとふんだのだ。 グランドピアノホテルは一流のホテルでロビーには名前の通りグランドピアノが置いてあり、いつも生演奏をしている。 ランチもディナーも美味しいと評判で予約をしないと食べれないほどだ。 そんな一流ホテルを何故、この光駅周辺に建てたのかは不思議だ。 もし真理が、このホテルに来ていないのなら苦労も水の泡だ。 …いや水の泡であって欲しい。 真理が浮気をしているなんて思いたくない! しかし丈の思いはすぐに破られた。 ある男のすぐ後ろに真理の姿を見つけた… 丈 は愕然とした。 持っていた新聞の端を強く握りしめ震えていた。 つづく 前へ |次へ |
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