《MUMEI》
アパート経営
夫・真司の家はアパートを経営していた。
真司の両親はもうすぐ80歳になる。大家の仕事を息子夫婦に渡し、自分たちは別の家に住み、老後をゆっくり楽しむことにした。
真司はそのまま会社勤めを続けるから、大家の仕事は、もっぱら仁美が一人でやることになった。
アパートの大家の仕事など、当然経験がない仁美。だが、もともと働くことは嫌いではない。アパートの一階に夫婦で住み、家賃を受け取ったり、アパートの廊下や窓を掃除したり。それはなかなか新鮮な毎日を送れた。 専業主婦は返上したものの、家にいられるから、パートに出かけるよりは気分も楽だ。
仁美はよく働いた。ただ、アパートといっても木造の、古ぼけた、いわゆるボロアパートだ。お化け屋敷と言ったほうが早い。
風呂なしの共同トイレ。家賃は26000円。一階の玄関で靴を脱ぎ、下駄箱に入れる。寮のように土足厳禁だ。
二階に六部屋あるが全部満室。すべて男性だ。
女性から電話がかかって来ることは何度かあったが、面接に来たことはない。
おそらく外観を見たら背を向けて退散したのだろう。
快適な暮らしをする権利は、だれもが憲法で保証されているはずだ。
仁美も思った。
(あたしが部屋を探している人の立場だったら、絶対無理)
でも仁美が住む一階の部屋は、風呂もあり、シャワーもある。しかし住人は銭湯やコインランドリーを利用している。
そう考えると、家賃26000円は大しておいしくはない。

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