《MUMEI》 魅惑夕方。201号室の阿部が帰宅。スーツ姿が似合わないサラリーマンだ。 仁美は二階の廊下で掃除をしていた。タンクトップからは華奢な肩が覗く。長い髪を後ろに束ねているが、よく似合っていて、なかなかセクシーだ。そしてショートパンツに裸足にスリッパ。 挑発する気など彼女には微塵もない。暑いから薄着なだけだ。 今までモテない生活を送ってきたので、この格好がどれだけ刺激的か。狼たちの目に魅惑的に映るか。 仁美はそういうことは考えていなかった。 阿部は階段を上がって仁美の姿が目に入ると、オーバーアクションで驚いて見せた。 「ワオー!」 「あ、こんばんは!」 仁美は明るく挨拶した。キュートな笑顔が素敵過ぎて、阿部のもともと低い理性が揺らいだ。 「……いい」 「え?」 「いい」目が危ない。 「何がいいんですか?」 「え、いやいやいや。何でもありません」阿部は慌てた様子で首を左右に振ると、無遠慮な目線で仁美の体をながめ回す。「大家さんって、いい体してますね」 直球。 仁美は驚いて顔を赤くした。 「何言ってるんですか、いきなり」 「いやあ、美しい。天使、いや、女神のようだ」 「そこまで言ったらお世辞だとバレますよ」 口を尖らせる仁美がかわいくて、阿部は暴走する。 「お世辞なんて生まれてこのかた言ったことない」 「嘘は?」 「あります」 「ほらあ」 「そのスマイルがたまらない。今夜は眠れないかも」 「ハイハイ」 仁美は呆れた顔で階段を降りていったが、正直凄く嬉しかった。ルックスを誉められる免疫がないのだ。 「ヤバいヤバい」 浮かれてはいけない。人の妻だ。仁美は気持ちを引き締めた。 前へ |次へ |
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