《MUMEI》

通夜は始まった。









老舗の料亭を営んでいる加藤家の通夜は、たくさんの人が訪れた。








他に、仁さんの年代の人や、惇や拓海さんの同級生らしい人も何人かいた。






惇と、惇の父親と祖父は焼香する人に向かい、一人一人丁寧に頭を下げていた。





惇の母親は拓海さんについているらしい。




俺達の番が来て、俺は線香を二度焚き、祭壇の仁さんに一礼して、








そして親族である惇の方を向いた。











惇の視線にぶつかった…






惇は、丁寧に俺達に頭を下げた。












そして起き上がった時の、惇の表情は














大人の、しっかりした…







隣にいる父親ごと守る、大人の男の顔だった。













「じゃあ俺帰るから」
「ああ、気をつけてな、あと伊藤さんに宜しく伝えてな」


「うん…」


裕斗は俺をじっと見つめて、言った。



「俺の大切なダチの事頼んだ」



……。


「……ああ、
おまえの大切なダチは俺が責任もって守る」






間もなくタクシーが来て裕斗はそちらに体を向けた。


俺から、少しづつ離れる裕斗。



一年前、俺はあいつに惚れていて、どうしようもなく惚れていて…



そしてその頃のあいつは、気が弱くて頼りなくて、気い使いで、今にも壊れそうで…。



今のあいつは、あの頃のあいつじゃない。



自信に満ちて、人を守る力をつけて、俺の方が頼りたくなる男になった。




「裕斗!」



裕斗はゆっくりと振り返り、俺を見てきた。



「俺も伊藤さんみてーに!おまえが変わったみてーにあいつを変えてみせる!」





いつの間にか静かに降り出した雪。









裕斗は、少し笑って



タクシーに乗り込んだ。










俺は…






俺も、








変わる。









今日から、変わる。









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