《MUMEI》
通夜は始まった。
老舗の料亭を営んでいる加藤家の通夜は、たくさんの人が訪れた。
他に、仁さんの年代の人や、惇や拓海さんの同級生らしい人も何人かいた。
惇と、惇の父親と祖父は焼香する人に向かい、一人一人丁寧に頭を下げていた。
惇の母親は拓海さんについているらしい。
俺達の番が来て、俺は線香を二度焚き、祭壇の仁さんに一礼して、
そして親族である惇の方を向いた。
惇の視線にぶつかった…
惇は、丁寧に俺達に頭を下げた。
そして起き上がった時の、惇の表情は
大人の、しっかりした…
隣にいる父親ごと守る、大人の男の顔だった。
▽
「じゃあ俺帰るから」
「ああ、気をつけてな、あと伊藤さんに宜しく伝えてな」
「うん…」
裕斗は俺をじっと見つめて、言った。
「俺の大切なダチの事頼んだ」
……。
「……ああ、
おまえの大切なダチは俺が責任もって守る」
▽
間もなくタクシーが来て裕斗はそちらに体を向けた。
俺から、少しづつ離れる裕斗。
一年前、俺はあいつに惚れていて、どうしようもなく惚れていて…
そしてその頃のあいつは、気が弱くて頼りなくて、気い使いで、今にも壊れそうで…。
今のあいつは、あの頃のあいつじゃない。
自信に満ちて、人を守る力をつけて、俺の方が頼りたくなる男になった。
「裕斗!」
裕斗はゆっくりと振り返り、俺を見てきた。
「俺も伊藤さんみてーに!おまえが変わったみてーにあいつを変えてみせる!」
いつの間にか静かに降り出した雪。
裕斗は、少し笑って
タクシーに乗り込んだ。
俺は…
俺も、
変わる。
今日から、変わる。
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