《MUMEI》

湯船の中で俺はアキラさんの膝の上に座って、この男の人とは思えないくらいスベスベな肌を撫でたり肩に頬を寄せたりしながらいっぱいお話をした。

「あのね、兄ちゃが前に好きだった人はね…」
「かなた、余計な事は言わなくていいぞ」

風呂場の中の俺らの写真をドア越しに撮っていた兄ちゃは、俺の頭をギュッと押さえつけてきた。

「昔の恋人…」
「今の私の恋人はアキラだ、そうだろ」
「はい…」

アキラさんは兄ちゃを見つめて何か言いたそうにしていたけど、強引な兄ちゃに押し切られるように口を噤んでしまっていた。

「あの、それにしても…こんな写真ばっかり撮ってどうするんですか…」
「どうするって…」

この夏休みの間じゅう、兄ちゃはアキラさんの写真をいっぱい撮ってるらしかった。

「私のお楽しみだ」
「俺も見たいッ!」
「子供には…ダメだ」
「子供にはって、どこまで撮ってるんですか///」

兄ちゃは満足げに撮った写真を確認しながら、ちょっとだけ俺らに見せてくれた。

そこには女性の格好をした美人なアキラさんが写っていた。

「わぁ…綺麗〜///」
「そうだろ♪」
「ダメですってば///ちょっと克哉さん///」

それを見たアキラさんはお風呂でピンク色に上気した肌の色から、更にほっぺたを真っ赤にさせて、カメラを取ろうと手をバタバタさせて恥ずかしがっていた。

「俺も女の子の格好するの好きだよ」
「僕は…好きでやったワケじゃないし…///」
「その割にはポーズ作ってたじゃないか」
「そっ、それは///」

お風呂から上がってアキラさんが作ってくれた夕飯を食べながら、いっぱいお話をした。

兄ちゃとアキラさんの息の合った会話が飛び交うその光景は、久しぶりの家族の食卓に似ていて、何だか懐かしいカンジがした。

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