《MUMEI》 スリル夫は夜遅い。朝も早い。夜帰ってきて入浴を済ませると、すぐに酒を飲む。飲むと眠くなり、布団に直行だ。 週末は土曜日まで仕事。日曜・祝日の出勤も珍しくない。 新婚らしからぬ生活に仁美はやや不満だったが、夫の稼ぎが頼りだ。家賃が安く、しかも六部屋しかない。到底アパート経営だけでは無理だ。 仁美は毎朝、笑顔で旦那を送り出す。仕事が大変なので、家庭では安らぎを感じてほしかった。倒れられたら困るし、良き妻になろうと心がけていた。 それとは別に、いけない主婦の面も少しずつ開花していった。 子どもの頃、手がかからなかった子が不良になるケースに似て、青春時代に自分を抑えた反動か、毎日スリルを楽しむ不良主婦の道をまっしぐらだ。 昼は一生懸命二階の掃除。外観はお化け屋敷でも、アパートの中は凄くキレイ。これが仁美の自慢だった。 阿部や加刃はサラリーマンのようだが、深夜働いている人もいる。そういう人は昼、アパートにいるのだ。 仁美はいつものようにリスキーなファッションで廊下を掃除していた。 そこへ205号室の田中が出てきた。年齢不詳。プロレスラーのような肉体を誇り、太ももは仁美のウエストと変わらない。 なぜわかるかというと、いつも寝起きはパンツ一枚でトイレに行く。 最初は仁美も驚いた。注意をしようかと思ったが、ほかの男たちも平気で短パン一枚で廊下を歩く。 仁美は諦めた。あまり細かいことは言いたくないし、逆恨みは怖い。 しかし男が裸だと仁美は緊張した。まさか部屋に連れ込まれることはないと思ったが、田中のような巨漢に押さえ込まれたらアウトだ。 「いけない、いけない」 仁美は頭を激しく振って妄想を打ち消した。 夜は阿部と加刃の誉めちぎりに胸が高鳴り、昼は屈強な裸の男たちに緊張し、スリルを味わう。 「あたし性格変わったのかなあ?」 スリリングな毎日に満足する自分を発見し、仁美は慌てた。 前へ |次へ |
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