《MUMEI》
紅一点
昼間の男たちも、口数が少ないだけで、仁美に無関心ではなかった。
主婦だから恋愛対象にはされていないとは思うが、仁美は彼らの目線が気になった。
明らかに大家を見る目ではない。仁美は、女を見つめる優しい眼差しを感じていた。
紅一点だからモテるのか。魅力が増したのか。それはわからないが、仁美は鏡に映る自分を見ながら、独身時代に会った男たちは、見る目がなかったのだと結論づけた。
高校時代は、どうしても男子と平気で喋る女子が目立つ。
OL時代も、男性社員が企画する飲み会に、誘われると必ず参加する女子社員は、モテる。
「ノリがいい」と誉められる。仁美は断っていた。数回断れば誘われなくなる。
今は違う。アパートのアイドルだ。紅一点だから大胆になれる。それはあるかもしれないと仁美は考えた。
彼女は夫の真司のことを、心から愛していた。本来モテる必要はないのだ。
しかし、皆に好意を持たれている快感はたまらない。そういう経験を味わったことがないので、余計に弱い。
自分を好いてくれる人には、自然に優しくなる。独身時代にあった警戒心は薄れ、仁美本人も気づかなかった冒険心が、頭をもたげてきた。

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