《MUMEI》 「あら、木下君。」 廊下で神部のお母さん、鮎子さんに出くわす。 「こんにちは。」 極力、自然に振る舞うようにした。 「入院なの?」 「はい、風邪こじらせたんです。」 「そう、お大事にね。」 身構えていたが特になにもなく、それだけ言うと颯爽と居なくなった。 間を置いて、俺はついつい尾行してしまう。 七生の肩が悪化したんじゃないかと考えてしまうからだ。 女性(人妻)の後ろを尾行とは、ストーカーっぽい。 鮎子さんは鞄の他に紙袋をぶら下げていて、個室に入っていく。 個室って、重病ではなかろうか。 前を通り過ぎて、中の様子が一瞬でも見えればいいんだ。 頭では分かっているが、いざ歩くとなると足が鉛のように重たい。 「その下品な色で拭えますか!出来の悪い嫁ですこと!」 罵声と共になにかが廊下に飛んで、慌てて隠れる。 様子を物陰から見てみたが、鮎子さんは黙々と床の物を広い集めているところだった。散乱しているのはタオルである。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |