《MUMEI》
バスタオル
家賃は各自、一階の大家の部屋に持っていく。月末になり、皆は家賃を仁美に渡した。
夜。夫の真司から電話がかかってきた。
「はい水谷です」
『俺だ』
「どうしました?」
『きょうは遅くなる。先に寝てなさい』
「起きてますよ」
『深夜になるから』
「わかりました」
どうせ飲み会だろう。サラリーマンにとって飲み会も仕事のうち。仁美は真司と同じ職場にいたのだから、だいたいのパターンは読めた。
若い女子社員も一緒だろうか。ふと思ったが、仁美は考えないことにした。
星童俊介以外は皆家賃を持ってきた。時計を見る。
「8時かあ」
部屋へ行ってみる。いない。仁美は梅酒が飲みたいので先に入浴を済ませようと思った。飲んだら入浴できなくなるからだ。
戸締まりをしっかり確認してから脱衣所へ。服を全部脱ぎ捨て、髪を洗う。
「ふう」
仁美は熱い湯に入り、ぼんやりしていた。
ピンポーン。
「嘘、タイミング最悪」
俊介かもしれない。少しわくわくした仁美は、脱衣所に出ると髪と体を軽く拭き、全裸のまま玄関に向かった。
「はい」
ドア越しに言うと、遠慮がちな声が聞こえた。
「あの、星童ですけど」
「はい、ちょっと待っててね」
仁美は汗がまだ引いていないので服を着たくなかった。夏はこれが困る。
それにまだ入浴の途中で、どうせまた入り直すのだ。
「まさかね」
仁美はドアを見つめながら急激に胸の鼓動が高鳴る。このドキドキ感がたまらない。
だれもが魔がさすということはある。仁美は待たせてもいけないと思い、白いバスタオルを体に巻いた。
阿部や田中なら怖いから絶対にやらないが、うぶな少年をからかいたい気分になってしまった仁美。
すました顔をつくると、ドアを開けた。
「あっ…」
思いがけないセクシーな格好に、俊介は目が泳いだ。
「ごめんなさいね、こんなカッコで。お風呂入ってたから」
「はあ」
「家賃?」
「実は、ちょっとご相談があるんですけど」
相談。何だろうか。さすがにバスタオル一枚では部屋に上げられない。仁美は指を上に差した。
「部屋行ってて。すぐ行くから」
「はい」
ドアを閉めた。凄く緊張した。夫の顔が浮かび罪悪感もあったが、どうせ夫も女子社員とカラオケで盛り上がるのだと、仁美は無理やり両者リングアウトに持ち込んだ。
それより気になるのは俊介だ。かなり深刻な顔をしていた。住人同士のトラブルでなければいいが…。
仁美は急いで服を着る。タンクトップにショートパンツに裸足という、いつものスタイルで202号室へ行った。
部屋に入り、スリッパを脱ぐと、戸を閉める。さすがに緊張感はあるが相手は羊のような少年だ。

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