《MUMEI》
約束
『やっと愛知だ』
『はーやっとだ』
平日の東名自動車道は若干渋滞していた。
仁の車で俺達は実家に向かっていた。
車で送ると言いだした仁。
俺も大学があるから、もう帰らねばならなかった。
正月までには必ず帰省する、そしてその時に…
親父に頭下げて、二人で料亭を継がせて欲しいと…
頼むと、仁は言った。
俺が本当は料亭を継ぎたいと思っていた事。
親父を尊敬していて、板前になりたかった事を、仁は見抜いていた。
だから俺は、煙草を吸わない事や、大学でも栄養学を学んでいることも分かっていた。
バイトも、実家とは違う料亭でしている事も、
お袋から聞いていて、知っていた。
接客には自信あるから、なんて仁は言った。
惇にも、自分なりに償いたいと言った。
今更だけど、親父が煙草駄目だって言った理由よくわかったって俺は仁に話た。
惇の作った海老のピラフ、確かに美味いけど海老の処理の甘さで少し臭みを感じた。
挑発するために惇の煙草吸った後めちゃめちゃ舌が痺れた。
凄く苦かった。
多分、あの臭みは煙草を知らない俺だから分かったんじゃないかって
そんな話とか、あと大学生活の話もしたり、仁も失業したのをきっかけにホストになった事を教えてくれて…
『俺は一生かけて拓海に償いたい、拓海が生きる希望をなくさない様に、拓海の事を支えたい』
『…仁』
『俺は拓海の恋人になりたい、惇の…
惇がもし俺を許してくれる時がくるならば…
俺は惇の、本当の兄貴になりたい…』
『…なれるよ、…きっと…』
俺は仁の腕に掴まり、頭を擦りよせた。
仁は片手を俺に回し、俺の耳を撫でた。
俺は眼を閉じて
これから先の未来に祈りを込めた。
これからたくさん作っていけばいい。
二人の真実を…
閉じた瞼は強い日差しで真っ赤な世界…
しかし突然、それは闇に変わった…
激しい、音がした。
気がつくと車が停止していて、
俺の上に仁が覆いかぶさっていた。
『生きて…』
その一言が俺の耳に聞こえて…
『うん…』
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