《MUMEI》

怒りに満ちた瞳からは大粒の涙が溢れている。

俺は、無意識のうちに柊を抱きしめていた。たった一人の男に命を奪われ、憎しみの感情しか持てなくなった彼女を見ているのが辛かった。




「っ!!何をする!離せ!離せぇー!」

「…柊、辛かったな。でも、もうやめよう。こんなこと、終わらせよう」

「嫌だ!!私はお前達を絶対に許さない!!殺してやるんだ!!」




俺を突き飛ばし、身体が解放されたところで、柊は言葉を続けた。




「赤い薔薇を送った時点で、あんた達の死は決まったことなんだ!今更、月代君が死ぬことは変わらない!」

「薔薇…?カウントダウン以外にも意味があったのか?」

「あるよ。私は死ぬ前に彼氏からX'masプレゼントとして白い薔薇を貰ったの。そして、その薔薇に囲まれて死んだ。私の血で真っ赤に染まり、赤い薔薇となった薔薇の中でね。だから月代君たちには、死の宣告として真っ赤な薔薇を置いておいたの」





そう言い終えた彼女は、じりじりとにじり寄ってきた。その姿に恐怖を覚え後ずさろうとするが、足がすくんで動かない…。



殺サレル






「もういいでしょ?雑談は終わりよ」

「や、やめろ。もうこれ以上人殺しをしちゃいけない!罪で手を汚すな!!」

「あんたは死から逃げられない!私とあの世へ逝くんだ!!」





だめだ、もうこいつが考えを変えることはない。

硬直していた足を、少しずつだが無理矢理動かして後退る。





「逃げられないって言ってるでしょ?それに、さっきから私のためみたいに言って説得するけど、本当は自分のためでしょ?自分が助かりたいだけなんでしょ?」

「ちが「でもさ、高岡君や剣持君だけが死ぬんじゃ、可哀想だと思わない?不公平よねぇ?」

「!!」





柊の言葉が胸に突き刺さる。




――智と椋は、柊に復讐を受けた



この事実が、重くのし掛かる。
二人は、なす術もなく
何も知らずに死んで、
俺だけが安穏と生きるのか…?

いくら柊に罪を重ねさせないためとはいえ、本当に俺だけ生き残っていいのか?



柊の言葉に動きを止めた瞬間、柊の長い髪が首に巻き付いてきた。






「っ!?」

「捕まえた…。直ぐ楽にしてあげる」

「な、や、やめ゛…」




引き千切ろうとしても髪はどんどん絞まり、指を入れる隙間もない…

霞む視界に、柊の狂気に満ちた顔が映る






「やっと、やっと全員に復讐できるんだ!!アハハハハ――!!!」

「…た、たす゛…け゛…」




遠退く意識の中で柊の笑い声だけが頭に響いた…

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