《MUMEI》
帰りは二つに分かれて
「じゃあ、そろそろ帰ります」


雪が積もりそうなのがわかり、利恵さんが立ち上がった。


「ます〜」


瑠璃ちゃんも、それに続く。


「利恵さん、宗方さん乗せたら車狭くなります」


岸さんは、慌てて机の角に腰をぶつけた。


「ひどい、岸君」


疲れ果てている宗方さんは、未だに座ったままだ。


「こんな汚いの、乗せたくないし」

「ひどい!、利恵さん」


「くさいのやー」

「るりっちまで…」

「仕方ない。俺が洗濯しましょう」


美作さんの口調は、かなり冷たかった。


「お、乙矢君…」


しかし、宗方さんは感動していた。


「よかったら、温泉旅館紹介するよ?」

「すみません。泊まる予定無いので」


美作さんは、宗方さん以外には礼儀正しい。


(あ、俺にも冷たいな)


本人は無自覚かもしれないが、俺はそう感じていた。


「じゃあ、駅前の日帰り温泉施設行ったら? あ、それに、娘婿が経営してるショップ近くにあるから、新しい洋服も買えば?

カード使えるし」


「ありがとうございます。そうします」


美作さんは、果穂さんに深々と頭を下げた。

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