《MUMEI》

「二郎さん……、何していらっしゃるの?」

七生達と反対の俺の真後ろから声がした。
その声、瞳子さん……!
咄嗟に瞳子さんを物陰に引きずり込む。
押し倒すような形になり、

「ごめごめごめごめんなさい!」

壊れた機械のように小声で謝った。


「いえ、大丈夫です。七生さんと会いたくなかったのですか?」

間違いではないので、頷いとく。
七生が部屋に入ったのを確認してから、二人で休める場所に移動した。


「あ、あの……お見舞いですか?」

沈黙に耐え切れない。


「はい。」


「七生のお祖母さん、病気ですか?」

病気とは思えない元気さでしたが。


「いえ、」


「怪我ですか?」


「二郎さんのお見舞いです。」

……ん?
それは、瞳子さんが七生のお祖母さんじゃなくて俺のお見舞いにきたってこと?


「……あ、ありがとうございます。」


「いえ……。私、どうしてもお礼が言いたくて。」


「あ、ありがとうございます。」

こっちが、お礼言ってしまった。


「あの……二郎さんのお陰で私……、私……!」

瞳子さんの目から涙がこぼれ落ちる。
感極まったか?


「おめでとうございます、正式に婚約されるのですよね?」

胸が苦しい。
涙を拭いてもらおうとハンカチを渡す。


「私、二郎さんのこと忘れません……!」

そんな、永遠の別れじゃないのだが……。


「俺も忘れませんよ。」

瞳子さんは俺のハンカチを受け取らずに、見ているばかりだ。





「私、二郎さんに嘘ついていたんです……。」

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