《MUMEI》 「これ……演りたい。ぼくのだ。」 驚いた、まるで自分のもののように言い放つ。 「盗作は犯罪だ。」 その記憶力で、何処まで盗み見たのか。 「伊武さん、撮って。」 俺の今の状態を見てよく言えたものだ。 「もう、撮らない。」 「ぼくも、もう何もしたくなかったけど、これは演りたい。」 鬼気迫るものがある。 「お前にやろうか? 四十くらいになったら持ち込みすればいい。」 この脚本は遺書だ。俺は、遺書を見せるほどの勇気はない。 「こんなに、生きてる作品にはもう出会えないよ、伊武さんは魔法使いでしょう?ぼくは見たい。この作品を見た人を見たい。もう……、ぼくにはこれしかないんだ、魔法かけて。」 縋るような目付きだ。 [魔法使い]とは俺が昔、本番に弱い光に自信をつけさせる為に使っていた暗示だ。 「……これはな、子供が居なかった俺達夫婦の子供みたいなものだ。そんな、気持ち知ってるか?」 「キスはしたことある。それは好きじゃないの?」 「違うな、本当のを俺は知ってる……」 知りたい、と目が物語っている。 ……忘れたい思い出というやつだ。 前へ |次へ |
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