《MUMEI》
脅迫
警察に相談したいが、真司にすべてを知られるのは困る。仁美は意気消沈した。
(どうしよう)
部屋で一人頭を抱えていると、また俊介が来た。
「何ですか?」
「ちょっといいかな」
「何?」
「俺が来いって言ったらすぐ来ればいいんだよ」
仁美はカチンと来た。
「待って。あたし、絶対服従するという約束はしてないわ」
「したよ」
「え?」
「ベッドの上で。何でも言うこと聞くから閉めてって言ったじゃん」
仁美はうつむいた。あの夜の羞恥が蘇る。
「あれは。そうでも言わなきゃ閉めてくれなかったでしょ」
「かわいい」
俊介が頭を撫でようとしたので、仁美は強く振り払った。
「あれ、何かなその態度は?」
「用事があるから来たんじゃないの」
「まあいいや。来な」
仁美は、外に連れて行かれた。
「仁美」
「何?」
呼び捨てにされてムッとする仁美に、俊介は怖い顔を向けた。
「半日ホテルで一緒に過ごしてくれたら、写真を消してあげる」
仁美は顔を曇らせた。
「申し訳ないけど、お断りします」
「じゃあ、今度はダンナの会社に送ろうかな。写真」
「ゆすらないって約束を破るなら、あたしも約束は守れない」
俊介は睨むと、いきなり凄んだ。
「何強気に出てんだよ。俺が口だけだと思って舐めてんのか?」
仁美は呆れ顔で黙った。
「ホントにやるぞ」
「あっ」
仁美は慌てた。出張に行っていたはずの真司が向こうから歩いて来る。
真司の怒りに満ちた顔に焦り、俊介は急に好青年の表情と声に変わった。
「そんなに安いなら、今度スーパーに行ってみます」
俊介は仁美に頭を下げると、真司にも軽く会釈をし、そそくさとどこかへ走っていった。
真司は怖い顔で仁美に歩み寄る。
「言い寄られていたのか?」
「いえ」
「スーパーの話なんかしてなかっただろ?」
仁美は無言で下を見ている。
「確かに奴はストーカーだ。俺に任せろ。ストーカーなんかガツンと言えば終わる」
仁美は心配になり顔を上げた。
「何をする気?」
「俺が撃退してやる」
「ダメよ、刺激しないで。あの男はそんなウブな少年じゃないからね」
「畜生根性の奴はなあ。弱気に出るとつけあがるんだ。俺に任せない」
真司は聞く耳を持たない。自信満々の笑みを浮かべると、さっさとアパートの中に入っていった。
仁美は不安な顔色で唇を噛んだ。

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