《MUMEI》

.

わたしは一応、川崎先生に一礼してから、

中庭から、走り出した。





******





昇降口は、ひっそりと静まり返っていた。

冷たい沈黙の中、

義仲が所在なげに、金属製の傘立てに、浅く腰掛けていた。


顔を俯かせているので、よく見えないが、

どこか、重い空気を纏っていた。


わたしは静かに、彼に歩み寄る。


すぐ目の前までやって来ると、


「ねぇ」


と、ぶっきらぼうに声をかけた。

けれど、義仲は答えない。

わたしは構わず、つづける。


「川崎先生に、あんたとは、もう関わるなって、言われたんだ」


彼はやっぱり黙っていた。わたしは、ため息をつく。


「それでさ、わたし、いろいろ考えてみたんだよね」


義仲は無言。わたしは気にせず話しつづける。


「あんたと出会ってから、ヒドイ目にばっか遭っちゃって、このまま一緒にいたら、この先もずっとこうなのか?って思うと、正直、不安だなって」


それが本音、とわたしがそこまで言うと、


「璃子ちゃんの気持ちは、わかる」


義仲が突然、口を開いた。小さな声だった。

.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫