《MUMEI》
下着姿
仁美は、指定の場所である倉庫に到着した。黄色のTシャツにジーパン。サンダルではもしも逃げるときに走れないから、スニーカーを履いてきた。
大きな倉庫だ。だれもいない。今は使っていないのか。古くて汚い。
仁美は奥に入ってみた。暗い。
「俊介さん?」
返事はない。ガランとしていて、パワーリフトが一台と、ハンドリフトが数台見えた。
「俊介さん?」
仁美は恐る恐るさらに奥へ行く。
静かだ。辺りを警戒しながら歩く。
「俊介君。いないの?」
積み上げられたパレットや重ねられた箱が視界を遮る。
二階へ行く階段が見えた。タンクや掃除道具がある。
さらに奥へ進むと人がいた。俊介だ。
「俊介君」
「一人?」
「約束通り一人よ」
「警察には連絡した?」
「してないわ。信じて」
俊介が近づく。
「本当に一人で来るとはいい度胸だ」
「あなたは、話せばわかる人だと思ったからよ」
「話してもわからないと思ったから、暴力で部屋を追い出したんだろ?」
仁美は唇を噛んだ。
「夫のしたことは、あたしの責任です。謝ります」
仁美が頭を下げる前に俊介が怒る。
「命令したんだろ?」
「まさか」
「とぼけるな」
「天に誓ってそんなことしません」
美しい。俊介は心底そう思った。その仁美が今目の前にいる。
「まあいいや。バッグの中のスタンガンやスプレーは預かっとく」
「そんなもん持ってないわ」
仁美は怒った調子でバッグを俊介に渡した。俊介は作業台にバッグを置き、中身を見た。
「よし、次は身体検査だ」
「え?」仁美は焦った。
「全部脱ぎな」
「ヤです」
「じゃあボディブローでお寝んねかな」
俊介が歩み寄る。仁美は慌てて両手を出しながら壁まで下がる。
「待って、待って、わかったから」
「何がわかったの?」
「身体検査が目的なら、Tシャツとジーパンだけで十分でしょ」
「ダメだ。スッポンポンになってもらうよ」
「一人で来たら許してくれるって言ったはず。裸にしたら、許したとは言えないわ」
仁美が睨む。俊介は笑った。
「わかった。じゃあ、下着は許してあげる」
仁美は緊張した。大丈夫だろうか。乙女の危機だ。俊介の目線が気になる。男が見ている前で服を脱ぐのは恥ずかしいし怖い。
仁美はTシャツを脱いで俊介に渡す。次にスニーカーを脱ぎ、ジーパンも俊介に渡した。
俊介は作業台にジーパンを置くと、ポケットを簡単に見た。
水色のセクシーなブラにショーツ。裸足のビーナス。
俊介の狼性が嫌でも刺激される。身の危険を感じた仁美は、おなかに手を当てて怯えた表情だ。
「俊介君。何もしないと約束して」
「仁美。綺麗だよ」
無謀だったか。今さらそんなこと思っても遅い。仁美は胸の鼓動の高鳴りを抑えることができない。
「仁美。服脱がされたときのことも考えて、ちゃんと勝負下着つけてきたの?」
「そういうくだらない質問には答えられない」
「何だと?」
俊介が怖い顔をすると、いきなりナイフを出して歩み寄る。仁美は硬直した。
「違うの、待って」
「何生意気な態度取ってんの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、待ってください俊介さん」
必死の仁美を見て、俊介は笑みを浮かべた。
「かわいい。反省してるなら許してあげる」
仁美は汗びっしょりだ。呼吸も乱れ、息が上がる。
(絶対無傷で帰るんだ)
仁美は心の中で固く誓った。

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