《MUMEI》

目を閉じて、全てを忘れるという睡眠と同様の行為。

静かに、時計の針の音だけが鳴る。
口は、話す、食べる以外に使うこともあったな、と思い出す。





「……ふ……、ぅン 」

本当に慣れてる……吐息が、子供の域を越えてた。
舌を抜くと、だらりと光は転がり落ちて肩で息をした。

離れる瞬間、
千寿と言っていた。
恵良 千寿は小説家であり、光の義兄である。


「光……お前、自分の義兄さんと……」


「どこが間違いか、誰も教えてくれなかった……寮で暮らすんだ。」

そうか、世の中には平等に愛情は降り注がないのだ、光の妙な落ち着きはそこから漏れているのだ。


「魔法なんて、俺には無い。本当の魔法使いは光、お前なんだよ……そうだろう?役者はなんにでもなれるんだ。」

画面の中で、笑う光からは苦しみのカケラも見当たらなかった。


「ぼく……優しいお父さんになりたい……。」

強い意志が瞳の中に宿っていた。
この脚本の主役は、優しすぎる父親だ。


「なりたい、じゃない。なる、と思えるまで待ってやる。」

光は黙って頷いた。

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