《MUMEI》 立派な屋敷『でけー……』 それが、この屋敷を見て一番に思ったことだった。 今日から、こんな立派なところでバイトかと思い、青年は苦笑いをした。 彼の名は、"白霧 悠一"。 現在、都内の私立大学を目指す高校3年生である。 悠一は、この夏休みを使って、来年からするであろう一人暮らしのために、お金を貯めておこうとバイトをすることにしたのだ。 そこで父が提案したのがここ、桜城家の使用人としてバイトをすることだった。 高校時代の友人が一人、この屋敷で働いているらしく、紹介してくれた。 こんな良いところで、バイトの募集なんてあるわけがない。 父もダメ元だったようだが、快く悠一を受け入れてくれた。 『親父には感謝しなきゃな…』 そう思い、改めて屋敷を見上げてみる。自分には縁のないような立派な屋敷。 ここの住人は、さぞかし裕福な生活をしてきたことだろう。 そんな事をボーッと考えていると、後ろから声を掛けられた。 「白霧 悠一君…だよね?」 振り向けば、優しそうな雰囲気の男が立っていた。 「あ、どうも。えっと…」 「僕は、"南方 廉"。ここの使用人で、白霧君のお父さんの友人だよ」 「あ、そうだったんですか。今日から、よろしくお願いします」 「うん、よろしくね。最初は、慣れない仕事で大変だと思うけど、分からない事とかがあったら僕がサポートするから遠慮せずに言ってね」 南方さんは、人懐っこい笑顔を俺に向けてくれた。その笑顔で今までの緊張が少しとける。 「はい、有り難うございます」 「それじゃ、中に入ろっか。屋敷内を案内するよ」 そう言って、南方さんは大きな扉…玄関の扉を開けて、俺を中に入れてくれた。 屋敷内は、想像以上に高級感溢れている。 こりゃあ、何か壊しでもしたら大変な事になるな…。 俺は、慣れない景色に多少戸惑いつつも、南方さんの後ろを歩きながら屋敷内の構造を頭に叩き込んだ。 前へ |次へ |
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