《MUMEI》

俺が窓の外の鳶の鳴き声に耳を傾け始めた頃に、瞳子さんはようやく切り出した。







「私……二郎さんが好きです。」

時間が、制止したのかと思った……。


「瞳子さん?瞳子さんは七生が好きなんですよね。」

俺はそう言い聞かせてきたのに。
黙って瞳子さんは頭を横に振るう。


「七生さんのことは好きでした、大好きだったんです……でも、婚約が決まり海外に行くとなってから私、ずっと二郎さんしか頭に無くて……、二郎さんが応援してくれたから、七生さんと両想いにならなきゃって……!」

状況がまだ把握できていない。


「そのこと な、七生は?」


「話しました。」

俺、瞳子さんと七生が理解できない。


「私達は、違う世界の人間ですもの。
松代の、私の伴侶は、特別な英才教育を受けないと任せられません。
七生さんは二郎さんの代わりになるとおっしゃってくれて、七生さんは二郎さんには、今のままで居てほしいと……七生さんにも想い人がいて、その気持ちに踏ん切りをつける為の取引だって。」

俺の代わり?
俺は七生が好きなのに?


「じゃあ二人、好き同士じゃないのに結婚するの?」


「そうしないと、二郎さんを守れないくらいに私はもう貴方のことが……」

こんなにも瞳子さんは、情熱的だったのか。
松代のお嬢様だもの、どうしても手に入れたいなら力ずくでもなんとかしそうだ。


「七生が言ったの?」


「私の意思でもあります。松代に生まれなかったら、私は二郎さんのことをもっと好きなれました……。」

俺達、皆、麻痺しちゃったのかな。
恋すると、苦しい。

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