《MUMEI》 腹パンチ「来な」 口調は優しいが危険な香りがする。女性に優しい男性なら、こんな汚い倉庫を裸足で歩かせたりしない。 俊介は仁美の背中にナイフを向けて追い立てる。 「階段を上がりな」 「何をする気?」 「いいから」 「怖いわ。服を着させて」 「ダメだね」 仁美は下着姿のまま階段を上がる。恐怖だ。 (どうしよう。やられちゃう…) チャンスは今しかない。仁美は深呼吸。自分が階段を上がりきった瞬間にバックキック! 「あああああ!」 俊介が階段を転げ落ちた。仁美は走って逃げる。 「電話、電話」 事務所が見えた。ここなら電話があるだろう。 「テメー!」 俊介の声。階段を駆け上がる音。まずい。事務所はおそらく行き止まりだ。電話をかけても警察が来る前にドアを開けられたら詰みだ。 仁美は事務所へは行かず廊下を走った。俊介が追いかけて来る。 「まずい」 「待てこらあ!」 捕まったら終わりだ。命すら危ない。 「来ないで!」 仁美は立てかけてあった長い棒を倒しながら逃げる。俊介は転ばないようにまたぐ。 仁美は空箱やガムテープなど手当たり次第投げながら逃げるが効果はない。 「しまった!」 行き止まりだ。仁美は下を見る。倉庫の一階分は高い。アパートの三階の高さはある。飛び降りるのは無理だ。 仁美が逃げ道を失い、困り果てているのを見て、俊介はゆっくり近づいていった。 「よくもやったね」 仁美は両手を出して必死に哀願した。 「俊介さん待って。話しましょう。乱暴はやめて」 しかし俊介は歩み寄る。 「俊介さん、ちょっと待って…あう」 まさかのボディブローに、仁美は両膝をついた。苦悶の表情。 「もう一発行くよ」 「やめて、やめ…あう」 容赦ない。仁美は気を失った。 前へ |次へ |
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