《MUMEI》

ふわりとした感覚が、
上を通過した。


え?


慌てて前方に目を凝らすと……。


「ぎゃーー!!」


牛が高々と前足を掲げていた!


威嚇体制に入り、
俺に角を向ける。


「ま、待ってくれよ!

俺は間違って穴に落ちただけなんだよ。」


じりじりと後退しながら、
早口に話す。


だが牛はそれに一言も応じずに、
間合いを詰めてきた。


「ほ、本当なんだってば!

グレイドに話せば分かるから!!」


殺される!


すると牛の角が後数cmのところで、
動きが止まった。


そして低い声が聞こえる。


「お主、今グレイドと言ったか?」


「え、あ、はい。

言いましたけど……?」


「何故、主様の名前を知っておるのだ!?」


牛は俺をキツく睨んだ。


さっきから凄い殺気だ。


「し、知ってるも何も、俺はグレイドにつれられてここに来たんです!」


もうどうにでもなれ!


本当に殺される覚悟で、
両目を硬く閉じた。

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