《MUMEI》
桜城 翔
「――‥で、ここが食堂ね。何か分からないことある?」

「いえ、大丈夫です。でも、食堂のある家なんて聞いたことないですよ」

「まぁ、そうだろうね。普通はないから。…あ、あとこの家
には一人お嬢様がらっしゃるから、挨拶しないとね」

「お嬢様…ですか?」

「お嬢様は、あそこに見える別館にいらっしゃるんだ。翔と輝に挨拶に行ってから、お嬢様のところへ行こう」

「えっと、確か翔さんはこの家の当主でしたよね?輝さんというのは?」

「あぁ、輝は翔の弟だよ。使用人やメイドへの伝達は、彼がしてくれるんだよ」

「へぇ〜、そうなんですか」

「お、僕達の方から行くまでもなかったようだ」

「え?」






廉の視線を辿ると、スーツ姿の気品を漂わせた男が、こちらへ歩いてきていた。そして、悠一には目もくれず廉に「これから仕事で家を出る」とだけ言い立ち去ろうとした。






「お、おい。ちょっと待ってくれよ」

「…何だ?」






廉は、今日から悠一が住み込みで働くことになったと告げた。






「白霧 悠一です。今日からよろしくお願いします」

「…当主の桜城 翔だ。この家の名に相応しい行動をするよう気を付けろ。以上」






翔は、淡々とそれだけ言うと、二人の横を通り過ぎて行ってしまった。

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