《MUMEI》
桜城 輝
「何だよ、アイツ…っ!」





悠一は、翔の態度に怒りが込み上げてきたが、バイト初日からトラブルを起こし、クビというわけにもいかなかったため、無理に自分の中で押さえ込んだ。





「まったくあいつは…。ごめんね、悠一君。でも、本当はいい奴なんだよ」

「いい奴?俺には、血も涙もないご当主様にしか見えませんでしたけど?」






そう言い、溜め息をついた。
その瞬間、後ろから冷たい声が聞こえてきた。






「餓鬼、口の利き方を慎め」




『この声は、翔!?』







悠一は、ビクッとして後ろを振り向いた。するとそこには、予想通りさっきのスーツ姿の男が立っていた。

……どこか違うような気がするのは、きっと気のせいだろう。







「これはこれはご当主様。仕事に行かれたのでは?」

「「…………」」








悠一の言葉の後には、
しばらくの沈黙が続いた。






『ヤバい…俺、初日からとんでもないことした!?』






悠一が焦っていると、廉が言いにくそうに口を開いた。







「あー…、えっとね、悠一君。彼は翔じゃないよ」

「はい?」







…あ、さっきとは違って、ネクタイがだらしなく下がってる。



目の前に立っている男は、話しにならないというように、わざとらしく溜め息をついた。






「俺様は、桜城 輝。翔の双子の弟だ」

「あぁ、そりゃどーも」





成る程、双子なら納得だ。
何しろ、全く見分けがつかないくらいそっくりである。

っつーか、いくら双子でも嫌味な性格まで似ることなくね?


口調とか雰囲気は、
あんま似てねぇけど。

こいつ、自分のこと
'俺様'って言ってるし…。

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