《MUMEI》
ガムテープ
仁美は一か八か叫んだ。
「阿部さん助けて!」
「!」
俊介の目が危ない。嫉妬心は殺意にまで燃え上がる危険性がある。
俊介が近づいてきたので、仁美は下半身がキュンとなるほどの恐怖を感じた。
「やめろう!」
阿部が背後から首締め。間に合ったか。しかし俊介はボディに肘打ち。阿部はあっさり手を離して腹を押さえる。
俊介はナイフを阿部に向けた。
「ほらあ、来いよ」
阿部はナイフを見て下がっていく。仁美は焦った。そのまま走って逃げたら洒落にならない。
(阿部さん…)
この状況で俊介に命乞いするのは恥辱だ。それだけは嫌だった。
俊介がナイフを突き出す。阿部はよけると、俊介の腕を掴むと同時に手にガブリと噛みついた。
「あああ!」
ナイフが落ちる金属音が静かな倉庫に響く。
阿部は俊介の顔面に頭突き!
効いた。デスクの上のガムテープを掴むと、阿部は力一杯俊介の頭部にガツンとお見舞いした。
「あっ…」
俊介がふらつく。阿部はガムテープを見た。こんなものが武器になるとは。喧嘩なんかしたことがない阿部は、勢いに乗った。
「姫を苦しめる悪党はこうだ!」
阿部がガムテープで俊介の横面を殴打する。そのまま両手で押し倒した。俊介が後頭部を壁に打って悶絶。
今がチャンスだ。阿部はすかさずガムテープで俊介の両足をぐるぐる巻きにした。
「やめろ!」
「うるさい!」
ガツンともう一発ガムテープで頭を殴って黙らせると、両手首もぐるぐる巻きにした。
俊介は戦意喪失している。阿部は仁美のほうを振り向いた。姫はホッとした笑顔を阿部に向けている。
大役を果たせた阿部は感激していた。右拳を高々と突き上げてウルトラマンポーズだ。
「言ったでしょう。姫様を守るのはヒーローの役目だって」
「阿部さん。ありがとう。何てお礼を言っていいかわからないよ」
「そんなそんな」阿部は照れた。
「一瞬もうダメかと諦めかけたよ。本当に助かりました」
阿部は、愛しの仁美のセクシーな下着姿を見て、もともとないに等しい理性が飛んでしまった。
「いい」
阿部の目が危ない。仁美は慌てた。
「阿部さん。ほどいて」
「いい」
身の危険を感じた仁美は、少し強い語調で言った。
「どうしたの。早くほどいて」
阿部は仁美の横に回ると、聞いた。
「仁美さん。大丈夫?」
「大丈夫よ。とにかくほどいて」
阿部は仁美の魅惑的な体をながめた。下着姿を見るのはもちろん初めてだが、夢にまで見た愛しき人が、今目の前にいて、しかも手足を拘束されて無抵抗の状態でいる。
こんな場面は一生に一度。つまり今逃せば二度と巡って来ないだろう。
「阿部さん。どうしたの?」
仁美は刺激しないように優しく首をかしげて見せたが、返って逆効果だった。
「かわゆい」
阿部の右手が仁美のおなかに伸びる。
「え?」
仁美は赤面した。一難去ってまた一難か。

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