《MUMEI》
裁判までの待ち時間
「ね、俺変じゃない?」


(目立つけど)


「変じゃない」


このやりとりは、裁判所の中に入ってから何度も続いていた。


「ト、トイレ行ってくるね」


(またか)


「行ってらっしゃい」


柊がトイレに行く回数は、かなり増えていた。


その間、俺は


(何か、隔離された動物みたいだな…)


裁判所入口付近にある、透明なガラス張りの喫煙所を観察していた。


中にいるのは皆スーツの男性で


柊が、『金のバッチしてるのは、弁護士だよ』と教えてくれた。


教えた時の柊は冷静だったから、この中に、柊の憧れの弁護士はいないらしい。


(…何かイライラしてる人がいるな)


一人の男性


喫煙所の中では一番若そうな


しかし、四十は過ぎていそうな男性が


しきりに口から煙を出し、更に貧乏ゆすりをしていた。


(あ…)


裁判所入口の自動ドアが開き、グレーのスーツの女性が一人で入ってきた。


女性は俺の方を見ていたが


イライラしている弁護士は、女性に気付かれないように、女性を睨んでいた。


「隣、いいですか?」


女性の言葉に、俺は頷いた。

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