《MUMEI》
悪かった
「由井!」
 ユウゴは由井の隣にひざまずき、彼の頭を支えてやった。
ヒュゴー、ヒュゴーという、不自然な呼吸音が由井の口から聞こえてくる。
「おい、大丈夫か」
そう言った直後、ユウゴはなんとマヌケな言葉を掛けたのかと、後悔した。

大丈夫なはずないではないか。

 彼の腹からは、まだなお、血が流れ出ている。
これだけの血が流れれば、どんな人間でも助からないことがわかる。
「ば、馬鹿か、おまえは。……大丈夫なわけ、ねえだろ」
由井は顔を歪めながら、それでも笑みを浮かべて言った。
「あの、女。仕留めそこなった。……弾は、掠っただけみたいだ。悪いな」
「なに言ってんだ。おまえは、命の恩人だ」
「へっ。……お、おまえを、殺そうとしてたのに?」
「でも、助けてくれた」
「……俺のほうこそ、馬鹿、だったな。あんな、女に騙されて」
「ああ。おまえ、女に弱いからな」
「……うるせえよ……」
由井は大きく息を吐いた。

「あー……眠いな。もう、痛くねえし。……眠い」
震える声で、由井は言う。

 急に体が冷たくなってきた気がする。

「待て、待てよ!由井、寝るなよ。こんなとこで寝たら、あー、あれだ。そう、殺されるぞ!」
なんとか、由井の意識を戻そうと必死にユウゴは言い聞かせる。
「……ああ、だよな。起きなきゃ……」
「由井?」
「ユウゴ」
「なんだ?」
「……CD、返してなかったな」
「いいよ、そんなもの。やるよ」
「………なあ、ユウゴ」
だんだん、由井の声に力が無くなっていくのがわかる。
もう、ほとんど目が閉じている。
「なんだよ!」
「…わる、か…った」
「謝るなよ。気持ちわりい」
「…おまえは……生き…延びろよ、な」

由井は微笑んだ。

微笑んだまま、眠るようにその体が重たくなった。

「由井さん」
ユキナが目に涙を浮かべて、呟いた。

応える声は、もう、なかった。

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