《MUMEI》
意外とあっさり
少しすると、俺達の側のドアが開いた。


(あ…)


一番に入ってきたのは、喫煙所でイライラしていた弁護士だった。


そして、続いて灰原さんと、女性が入ってきた。


(一人足りなくないか?)


離婚ならば、女性の夫がいるはずなのにと、俺は首を傾げた。


しかし、結局その人数のまま


裁判官と記録係の人間が、上座にあたるもう一つのドアから入ってきた。


「祐也、俺達も立たないと」


柊に言われ、俺は慌てて立ち上がり


一礼して、皆と同時に着席した。


そうして、始まった裁判は


激しさはなく


女性は、一言も喋る事も無く


灰原さんと、女性の夫の代理人を兼ねている相手の弁護士が、お互いに持ってきた書類を読み上げるだけで終わった。


裁判官の話だと、この裁判は始まって二回目で


今回で最後になるらしい。


(意外とあっさりしてるんだな)


これが、俺が初めて見た裁判の感想だった。


ちなみに判決は


原告、つまり訴えを起こした女性側に


被告、つまり訴えられた夫側が慰謝料を払うという結果に終わった。


そして、そこには、夫は二度と女性に会わないという誓約がついた。

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