《MUMEI》

遠く意識の中、俺は幸せな気持ちでいっぱいで…




仁の重みが心地良くて…






閉じた瞼から流れた、熱い涙が酷く




擽ったかった……。













「…加藤さん、もう意識戻られてますよね?」



「………」



「………」





「……」




俺はゆっくりと…、





眼を開けた。





















仁のいない、世界。













眼を開けた瞬間、仁のいない現実の世界に俺は到着した。
















程なくしてお袋が来て、俺を見るなり泣き崩れた。



俺は体の自由もきかなくて、声もだせなくて…。



















「…じ……、……」






強く握られる俺の手。




ブルブルと震えているお袋。





















体は動かなくても、瞼を開ける事は出来なくても、だいぶ前から俺は意識を取り戻していた…。









仁が死んでしまった事










仁が死んでしまった事実を














仁を想いながら、俺を想いながら、





お袋や、親父や…













惇も











言っていたから…。















こんなにも俺達は家族に愛されていた。










仁…










仁は、惇にとってちゃんと本当の兄貴だったよ?







仁…






仁…








仁…










「…じんっ…、………、じ………」









溢れる涙と共にやっと発せた言葉は、愛しい人の名前だった。








「仁っ、じん〜…」






いっちゃやだよ…



やっぱり認めたくない







「じん〜…」







ぎゅっと俺を抱きしめるお袋。








「じんー…」









仁、仁、仁…








助けて




仁のいない世界なんて

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