《MUMEI》
遠く意識の中、俺は幸せな気持ちでいっぱいで…
仁の重みが心地良くて…
閉じた瞼から流れた、熱い涙が酷く
擽ったかった……。
「…加藤さん、もう意識戻られてますよね?」
「………」
「………」
「……」
俺はゆっくりと…、
眼を開けた。
仁のいない、世界。
眼を開けた瞬間、仁のいない現実の世界に俺は到着した。
▽
程なくしてお袋が来て、俺を見るなり泣き崩れた。
俺は体の自由もきかなくて、声もだせなくて…。
「…じ……、……」
強く握られる俺の手。
ブルブルと震えているお袋。
体は動かなくても、瞼を開ける事は出来なくても、だいぶ前から俺は意識を取り戻していた…。
仁が死んでしまった事
仁が死んでしまった事実を
仁を想いながら、俺を想いながら、
お袋や、親父や…
惇も
言っていたから…。
こんなにも俺達は家族に愛されていた。
仁…
仁は、惇にとってちゃんと本当の兄貴だったよ?
仁…
仁…
仁…
「…じんっ…、………、じ………」
溢れる涙と共にやっと発せた言葉は、愛しい人の名前だった。
「仁っ、じん〜…」
いっちゃやだよ…
やっぱり認めたくない
「じん〜…」
ぎゅっと俺を抱きしめるお袋。
「じんー…」
仁、仁、仁…
助けて
仁のいない世界なんて
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