《MUMEI》

案の定現れた悲劇の始まりの根元。
朝よりも幾分か落ち着いた、まだ出会って間もないあいつの声が、一宮を呼んだ。

「あ……和月!」

上から降ってきた、自分が一番良く知る声を聞き、一宮の表情はパッと明るくなる。

まぁ、別にそれまでの彼女が暗かったわけではないが。

「大丈夫か?陽和」

………大丈夫かって……さっきの頭の事か……?

俺は、チラリと一宮に目を向けた。

「大丈夫だよ……」

一宮はふいっと不満そうに目の前の和月から目を反らし、下を向いた。

「あのな、俺は心配してやってんだぞ?」

呆れたように呟くカヅキの瞳に、俺はふと、翳りを見たような気がした。

「あ……えっとあんた。今朝は悪かったな。」

不意に俺の方を向くと、カヅキはそんなことを言ってきた。

「あ?あぁ……別に。」

素っ気無い俺の態度に気を悪くした様子もなく、カヅキは拗ねたように下を向いたままの一宮を見て、小さく溜め息を吐いていた。

「あ、なぁ。あんた、何て名前?俺は、カヅキってぇの。和む月って書いて和月な。和月でいーぜ。一宮だとややっこしいからな。」

にっこりと人懐っこく笑った顔が僅かに、一宮とダブった。
やっぱり、似てなくても双子は双子のなのだろう。

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