《MUMEI》
刺青の正体
「なん…ヒャッ!?」


質問する前に、背中に冷たい何かが触れた。


「ジッとしてろ」


忍は、その冷たい何かをのばすように


いやに、優しい手付きで背中一面、撫で始めた。


「何なんだよ」


撫でる右手は優しいが


忍は、それ以外を器用に使い


俺の自由を奪っていた。


「なぁ、祐也」

「何だよ」

「俺は、旦那様を愛していた」

「知ってる」


(何を今更)


俺の返事に、忍は笑った。


「その俺が、旦那様の命令に背くわけ無いよな?」

「当たり前…熱っ!?」


いきなり背中にシャワーをかけられた。


「そんなに熱くないはずだぞ」


突然で驚いたが、確かにそれほど熱くなかった。


「それに…

俺が、旦那様の命令に背いて

お前の肌を傷つけるなんて、普通に考えて、あり得ないだろ?」


そう言って、忍はシャワーを止め


「背中、見てみろ」


俺を、バスルームにある大きな鏡の前に立たせた。


「…」


俺の背中には、薄く、小さな傷跡があるだけで


あの、大きな刺青は


跡形もなく、綺麗に消えていた。


俺がずっと刺青だと信じていた物は、ただの特殊メイクだと忍は言った。

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