《MUMEI》 忍との別れ「先代の、忘れ物だな」 忍は泥も気にせず、その歯を自分のハンカチで拭いた。 (嘘つき) 也祐のこの歯は、丈夫だ。 だからきっと、也祐が死んで、燃えた時も この歯は、残った。 その残った歯を 唯一の、欠片をここに植えたのは、忍しかいないと、俺は思った。 「これが、卒業祝いだ」 『交通安全』と書かれた普通のお守り それに、忍は也祐の欠片を入れ 俺の、手の中に戻した。 「…そんなに泣いてばかりじゃ、メイド失格だな」 忍は、そう言うと 門の外にタクシーを呼び、俺をその中に押し込んだ。 「し、のぶ…っ!」 俺は、最後に何か言おうと口を開いた。 「忍…っ」 感謝も謝罪も何も言えず、俺はもう一度、名前を呼んで 忍を見つめた。 タクシーの外で窓越しに 忍は、口を動かした。 俺の見間違いで無ければ、その口は 『愛してる』 『さよなら』 そう、言っているように聞こえた。 (さよなら、忍) 俺は、忍の愛には気付かず、忍を愛せなかったけれど それでも、忍は俺にとって大事な存在だったと …今、流れる涙で自覚した。 前へ |次へ |
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