《MUMEI》
・・・・
 瓦礫の向こうには多くの人が集まっていた。剣を構える兵士の姿も多く見られる。そのなかで唯一血を流している男がファースを指差し叫ぶ。
 「あいつだ、あの男が俺を変な手品で切ってきたんだ」
 切られた腕を押え、怒りを露わに兵士に伝える。何が起こっているのかという好奇心から野次馬が多く集まりだすなか、早く捕まえてくれよと兵士にせがむが、兵士もそう言うわけにもいかなかった。
 半壊状態の宿の前にいる青年は宿の少女を人質に取り盾にしている、無闇に刺激すれば少女の命の危険に関わるだろう。ここは様子を見る必要があった。
 崩れた壁をゆっくりと踏み越え、クレアを盾にファースは集まっている人間に告げた。
 「邪魔なんだよ、とっとと道を開けろ。この娘が死ぬことになるぞ」
 冷めきった目で捕まえたクレアを強引に引っ張り、自分がどれだけ本気であるかを表した。いまにも少女に危害を加えそうな青年を見て野次馬たちが騒ぎ、兵士の一人が説得しようと歩み寄ってくる。
 「待つんだ、そんなことしたって何にもならないんだぞ。わかってるだろ」
 武器を手放し、駄々をこねる子供に言い聞かすように猫なで声で、じりじりと近寄ってくる兵士に、ファースは容赦なく魔眼を発動した。
 空間に白い軌跡を残し、兵士の両腕が見えない刃に切りつけられる。痛みに声をあげ、立ち止まる兵士を見てファースは静かに口を開く。

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