《MUMEI》
・・・・
 「言ったはずだ、下がれってな。それともこの娘のまえにお前たちが死にたいのか」
 爛と輝く瞳は此処にいる全てを捉えている、本気になれば皆殺しは容易い。ファースの異常ぶりに気付くと兵士も人も後ろへと後ずさっていき、輪が大きくなる。刃物を振るったわけでも、投げつけたわけでもないのに兵士は切りつけられた。それは周りから見ていると奇術師の一芸のようだった。この場にいる人たちにしてみればそれほど奇怪なことで、種も仕掛けも無い手品を見せられているようだった。だが、ただの奇術師とは勝手が違っていて、好感を持てるほど生易しいものではなかった。手品と言っても職人たちがするものは、あくまで種や仕掛けが無いように見せているだけ。しかし彼の手品は違っている。本当に種も、仕掛けも無い。奇跡のようだった。
 下がる人々を見まわし、ファースはクレアを連れて歩きだす。遠のき、開けられた道をゆっくりと通って行く青年は、人質を連れているにも関わらずまったく隙を見せることなく兵士が近寄ることを許さなかった。
 二人の向かっている方向には、王都の出入り口である大門が口を開いていた。

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