《MUMEI》

だがその中にあって
一カ所、青の彩りが大量に咲いている場所を見つけた
「あそこ。降りて、クラウス」
ジゼルが指を差し、クラウスはそこへと降りて行く
近付けば近付く程強く香る花
その彩りは、やたら鮮やかだった
「この花がこんなにも自生してるなんて、どうして……」
「知りたいか?」
呆然と眺め、立ちつくすばかりのジゼルの背後
聞き覚えのある子が聞こえ、クラウスはジゼルを庇う様立ち位置を変えた
「……救われたいんだ。俺達は」
声へと振り返り
其処に立っていた男が物静かに呟く一体、何から救えばいいのか、と
ジゼルは首を傾げてしまう
一歩、また一歩とハイドは近づきながら
解らない、と呟くジゼルへ憎々しげに舌を打った
「……解らないのならば、もういい」
低い声で、ハイドは徐に剣を抜く
切っ先をジゼルへと向けながら
「所詮はお飾りの魔王。役になど、立つ筈がないか」
嘲笑を浮かべて見せた
救ってほしい
一体、何から救えばいいのか
やはり解らず、ジゼルは益々首を傾げてしまっていた
「……これ以上の話は無意味だ。ジキル」
はいどの呼ぶ声に応える様に
クラウスたちの背後、突然にジキルが現れた
その手には巨大な鎌が握られていて
「……花を咲かさなければ。その為に、あなたの(死体)が必要なの」
その刃もやはりジゼルを狙い、そして振り下ろされる
眼を閉じる事も、恐怖に悲鳴を上げる事もせず
唯々、事の行く末を眺め見ていた
斬り裂かれてしまう寸前
横から伸びてきた突然の手に腕が引かれ、ヒトの影がジゼルを覆う
「クラウス!?」
影は、やはりクラウスで
ジゼルを庇う為、腕で刃を受け止める
飛び散った鮮やかな朱はジゼルの頬へと飛んで散り、彼女の顔を汚した
「邪魔を、しないで。クラウス」
ジゼルとの間に立ち塞がるクラウスへ
ジキルが無感情な声をむければ
「そう言われて、俺が身を引くとでも?」
クラウスの低い声が返る
ジキルは緩く首を横へと振りながら
「……引かないのなら、アナタも殺すまでよ!」
一度刃を退け、ジキルは改めて振って上げる
振り下ろされるソレを、だが黙って受け入れてやる程潔くもなく
素早く腰を落とすと、ジキルの足下を蹴って払った
その所為で脚を縺れさせ後ろへと倒れ込み
その隙をクラウスは借り、ジキルから獲物を奪い取る
刃を突き付けてやれば
だがジキルはクラウスへ向け薄ら笑ったままで
ソレを一瞥し、だがすぐ様ハイドへと向いて直るとクラウスは言葉を低く言って向ける
「前の魔王も、こんな風に殺したのか?」
「何のことだ?」
「……お前が、殺したのか。あの方を」
まだ声穏やかに
だが相手が肯定の異を示した途端、クラウスの表情が一変する
振り降ろした刃
ソレを受け止めるハイドの剣
小高い金属音が辺りに響いていく
「そうしなければ世界は滅ぶ。魔界の方ならば大丈夫だろう?飾るだけの魔王ならば吐いて捨てるほど居るのだから」
「……黙れ」
飾るだけの魔王
先代に加えジゼルさえも侮辱され
クラウスはだが何を言って返す事もせず
背後のジキルへとハイドへと脚を蹴って回し距離をとる
その一瞬の隙を借り土を強く蹴りつけ飛んで上がっていた
「……逃げるのか?無様だな」
下から嘲る声を向けられながらも
取り敢えずはジゼルをこの場から遠ざけてやる事が先と
其処を後にしていた
腕の中のジゼルは小さく震えながら
始めて見るだろう主のその姿にクラウスは派手に舌を打つ
「……クラウス、降ろして」
「お嬢様?」
突然のジキルの声。クラウスは訝しむ事をすれば
だが訳は説明される事はなく
改めて降ろせ、とのソレにクラウスは降下する事を始めた
降り立ったそこにはジゼルの花の群れ
その中程へと座り込むと、ジゼルは何を思ったのか花を手折る事を始める
「お嬢様。一体何を……!?」
土すら素手で抉るジゼルの手首を掴み
突然のソレを止めてやれば
掴んだ細いそれから、全身の震えが伝わって来た
「……何も、覚えてないの。父様が居なくなった時の事。殺されたってどういう……」
クラウスの衣服の裾を掴み上げ、どういう事かを更に問う
隠し立てするつもりはなかった
唯、幼いこの主の耳には酷な話だろうと
先代の死については病没だと言い通してきたのだ

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