《MUMEI》
・・・・
 晴れた空色が見えると言うのに、買い物を済ませたメリルの心は同じように晴れてはいない。
 不安は当たるものだと、メリルは思う。
 これまでもそうだったように、今回のこの拭いきれない不安もそうだろう。ファースの姿が見えなくて、心がざわめいた。
 食材を買い、帰路についたいまもメリルの不安は膨れ上がるばかり、留まることを知らない。
 長い髪が風に揺らぎ、街に一つの事件が広まる。それは少女がある青年に捕まえられ、人質にされているという酷い話だった。
 嫌な予感は的中する。遠く離れた小さな的であろうと、それが熟れたリンゴであろうと限りなく正確に射るだろう。
 それほどまでに鮮明に浮かび上がる。まるで現場で目撃しているかのように。浮かんだ少女はセミロングの大人しそうな女の子、信じられない現実に目を背け、呆としている。その娘を捕まえて離さない青年。乱暴に見えるが、そうではなくただ表現力が乏しいだけ。
 想像は恐ろしいまでに現実味を帯びていて、どうしても否定出来ないでいた。なぜこうまで不安になるのだろうか、信じたくはないがこの不安を払う術が見つからない。頭を振るっても、頬を叩いても気が紛れない。強力に張り付き決して離れようとはしない。
 自然と歩く速度が速まり、現実でないことだけを願いその宿屋を目指した。

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