《MUMEI》
懐かしき台車の音
ガラガラガラガラガラ


マンションの廊下に台車の音が響く。


クーの台車は折りたたみ式で


荷物が乗っている時しかこの音は聞こえなかった。


「ねぇ、アルゴン」

「何だ」

「アタシの時も、こんな音だった?」


アルゴンがこの部屋にいる時に、ネオンは台車に乗せられ、クーに押されながら、ここまで来た。


「もっと遅かった」

「アタシが重かったって言うの!? アンタはどうだったのよ」

「…」


アルゴンが台車に乗っていた時は


音で表すと


ガラ、 …フゥ ガラ! ハァ… ガラガラ! ゼーゼー


だった。


合間に入ったのは、クーのため息や、息切れや、休憩だ。


『もう、おろせ』

『やだ』

『『…』』


「ちょっと、何黙ってんの!?」


思い出に浸るアルゴンを、ネオンの怒鳴り声が現実に戻した。


ピンポーン!


「ただいまー!開けてー」

「わかった」

「今行くわ!」


アルゴンとネオンは、玄関に急いだ。


『コイツ以上にインパクトあるヤツはいないだろう』


お互いに、そう思いながら。

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