《MUMEI》

まだ七月だというのに、今年の夏は雨も少なくて、本当に蒸し暑い。

「ん……大丈夫か?陽和」

心配そうに陽和の前まで来ると、掌を陽和の額に当てて熱があるか確かめていた。

「……んな大袈裟な……」

思わずそう呟いていた。

「……大袈裟じゃないんだよ。」

目の前にいた永久には聞こえていたらしくコソッと俺にだけ聞こえるぐらいの小さな声でそう言った。

「あ?……」

………どういう意味だよ?

言おうと思ったけど、言えなかった。

永久を見ると、コイツには似つかわしくない切なそうな笑みをしていたから。

その時俺は、きっとなにか事情があるのだろうと悟った。

「だいじょーぶだよ。ちょっと暑さにやられ気味なだけ。」

横から陽和の声が聞こえて、永久から視線を外すとそっちに向けた。

そこには、柔らかい笑みを和月に向ける陽和がいて、優しく笑う和月がいた。

「あ、なぁ志遠!俺らさ、夏休み海行くんだけど、お前も一緒に行かね?」

なんだか、微妙に白けた感じになってしまった空気を打ち壊すように永久は、俺に話しかけてきた。

そこにはもう、さっきの寂しげな笑顔はなかった。

「そうそう。誘おうと思ってたんだ!」

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