《MUMEI》
・・・・
 教会へと辿り着き、昨夜の事情を詳しく調べていると教会の外からざわめいた人々の声が届いてくる。
 不可視の刃を使う少年と、その人質の少女。そう噂している。これが誰のことを言っているのかアランは即座にわかってしまった。だから、わざわざ説明をしてくれていた男も書き込んだ今までのメモも放りだし教会の外へ駆け出した。
 走り出したアランを制止する声が聞こえたが、そんなことはもうどうでもいい。いまはそれよりも大切なことがある。
 裏口から飛び出し辺りを見回すと、話声のしていた角へと急いだ。そこには二人の若い男女が話しこんでいる、さきほどの声の主に間違いない。
 ものすごい形相で駆け寄って来たアランに驚いた二人は顔を見合せ、何が何やらまったくわからない様子だったが、一から説明しているほど悠長なことはしていられない。
 「いま話していた人質にされた少女は、どこで見たのかわからないか」
 あまりの緊迫感に呆気にとられ、まごつく二人。
 「えっと、話だと東の大門の方だって聞いてるけど」
 「だ、だけど・・・噂なんだから何もそんな食いつかなくても」
 この二人はただの噂だと笑い飛ばしているが、アランは笑えるはずなかった。あの男、ファースの能力を目の当たりにして笑えるほど、肝が据わっているわけでも馬鹿でもない。
 「ありがとう、協力に感謝する」
 感謝の意を表したいところだがそれをしている暇もない。しかしだからと言って何も言わないのはいけないと思い、せめてと礼だけは述べ早々に背を向けた。
 走り、東の大門へと急ぐ。人通りの少ない裏道をジグザグに巡り最短距離を行く。
 何があったのかは分からない、だが大門に向っていると言うことは王都を出る気なのだろう。それにしてもなぜ二人の少女を連れて行かないのか。アランにはそれがわからなかった。自分が同じ立場なら必ず二人を見捨てるようなことはしないから。
 少女二人を裏切り、一人逃亡を図るファースに激しい嫌悪感を抱いてしまう。あれだけの能力があるのなら二人を助ける手立てもあったはず、そう思いやまない。
 とにかくファースより早く大門に辿り着かなければ、彼がこうしていることも、決意した想いも意味をなくしてしまう。

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