《MUMEI》
「……」
「……」
石田はずっと黙ったまま。なぜかあたしも黙ったまま。
だって、なんか、あたしの知ってる石田じゃないんだもん。
ちょっと不安になってたら、やっと口を開いた。
「おまえさ」
「あ?」
「私立行くんだってな」
(なんで知ってんだ?誰にも言ってないのに…)
「よく知ってんね」
あたしは、県立に行くっていっていたのを、試験ぎりぎりに変更し、少し遠い私立高校を受験し、合格した。
理由は……
「あれが原因?」そう言いながら、石田が顔を覗いてきた。
「ほーんとう、よく知ってんなー、ははは…」
テニス部のムードメーカー、そんなのは一瞬でいなくなった。
二年の二学期、あたしは、テニス部全員にいじめられた。
といっても、ハブられたり、無視されたり、陰口たたかれたりとか小さいこと。
みんなを責めることはしなかった。調子に乗った自分が悪いから。
進路を変えたのは、お母さんのすすめ。
いじめられてるの相談してたし…まあ、話を聞いてもらっただけなんだけど。
みんなと同じとこ行くよりは、心が新しい気持ちになるはずだと、言ってくれた。
お母さんの母校でもあったしね。
ていうか、いじめのことも知ってたのか。恥ずかしい。だっせー。
「あんたは情報屋でも雇ってんの?ハハハ」
無理に笑ったんじゃない。嬉しかったから。あたしのこと、見てたっつうか、知ってたんだなって。
すると、石田があたしの頭に手を乗せてきた。
「!な、なに…!」
優しい手つきで、なでられた。
(やべ、泣きそう)
卒業式まで、耐えた自分を誇らしく思っていた。
一度も泣かなかったし、自殺とかも考えなかった。
お母さんの前ですら、弱音をはかなかった。
いま、
初めて、ほめられた気がした…。
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