《MUMEI》
千晶と巽。
  
大学の講義中、俺は斜め前に座っていた奴に見とれていて講義の内容なんか全く頭に入って来なかった。

あんな美しい人間が存在するんだな…。

しかも男で。



講義が終わると、女数人がそいつの周りに集って、そいつは何か色々と手紙やプレゼントなんかを貰っていたが、その優しそうな笑顔でそれらを突き返していた。

「なぁ、賀川…」
「誰だ…」

その綺麗な奴はいかがわしげに俺の顔を見つめてきたが、俺はさっき女の子達がこの美人を”賀川くん”と言っていたのを聞いてその名前を言ってみただけなんだが。

「お前、綺麗な顔して酷でぇ事すんのな…」
「あぁ…アレか、いらないから返しただけだ」
「受け取ってやってもいいじゃねぇか…」
「ゴミになるだけだ」

クールな奴はそれだけ言うと、さっさと講堂の階段を下りて行ってしまった。

俺も、彼女とか面倒なものを作りたいとは思わない主義だったんで、奴と気が合うかもなと思ってその後を追いかけた。

「なぁ」
「…何だ」
「俺は笹山って言うんだ、よろしくな!」

俺がそう言って手を差し出すと、奴は戸惑ってはいたが手を差し出してくれた。




俺は最近、自分が”ゲイ”なんじゃないかと思う事がある。

もちろん過去には女とも付き合った事もあるが、いちいち面倒で恋愛をしているというかそういう義務を負わされているんじゃないかと思うほどだった。

そんな時、イイ男を見るとゾクゾクする事があった。

街で見かけた好みの男を追いかけて、二人きりになった所で誘うと意外とついてきてくれて。

ホテルで済んだ後に聞いてみると案外”ノンケ”だったりして。

ゲイの多い所に居るような、あからさまに売りをやっているような男には触手が向かないんだが、全くその道と関係無い所に居るような、いわゆるストレートを蹂躙するのが好きなんだと、数人と身体を重ねているウチに気が付いた。

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