《MUMEI》

「何だ…」
「いや、何だかつまらなそうだな…って」

大学の学食に居た奴の近くに座ると、そいつの食ってる和食を見ながらこっちはファーストフードのハンバーガーにかじり付いた。

「綺麗だな…お前」
「…男に言われたのは、初めてだ」

中庭で読書をしていたこの美形に話しかけると、俺の方をチラッと見ただけで無視してまた読んでいた本の方に視線を戻していた。

「無視すんなよ…」
「…何だ…見て欲しいのか」

そう言うと奴は俺の方に向き直り、テーブルに肘を突きながら、じっと俺の顔を見つめてきた。

「そうだ、俺の事を見ろ、巽」
「…俺の名前を知ってるのか」
「あぁ、賀川巽だろ、俺と同い年の同じ学年で、こうやって同じテラスのテーブルで向かい合ってる」
「…俺の名前くらいしか情報が無いじゃないか」
「7つ下の可愛い弟が居る」

俺がその弟の事を言った途端、奴は眉間に皺を寄せて俺の事を睨んできた。

「可愛い盛りだな、まだ…小学生か」
「…どこまで知ってるんだ…気色悪いな」

住所を調べればその周辺では有名なあの”賀川”の坊ちゃんだと言う事くらいすぐに分かった。

玄関口が見える周辺でブラブラしながら張っていると、その家にランドセルを背負った男の子が帰ってきた。

その短パンから見える綺麗な足の可愛らしい女の子みたいな男の子がコイツの弟”賀川あきら”だという事も、その子の持ち物に書いてあった。

生け垣の隙間から家の中を覗き見ていると、学校から帰ってきたその弟はランドセルを背負ったまま兄貴に一生懸命話しかけているのが見える。

その子は嬉しそうに今日学校であった事なんかを話しているのだろうか、その話を兄貴のコイツはちゃんと聞いてやっていた。

「兄弟仲が良いんだなぁ〜俺は一人っ子だから羨ましいよ」
「…一人っ子なのに、そんなんじゃ大変だな」

巽は皮肉っぽく俺にそう言うと、苛ついているのだろうかコイツに似合わないくらい大きな音を立てて本を閉じ、イスから立ち上がると俺を避けるようにその中庭を後にした。

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