《MUMEI》

「……ふっ、ふは……」

息苦しそうに端から空気を送り込むが俺は隅々まで七生を搦め捕る。


「……ん……、瞳子さんとどっち上手い?」


「聞くな。」

俺の肩を掴んで、覆いかぶさるようにキスが再開された。


「うぅ、……ン ンッ」

七生の本気は俺達の体が分けられたことさえ信じられなくさせる、吸い込まれると時折、自分の鳴き声が交じる。


「トモダチのキスじゃないやつだ。」

乱れた呼吸を正している俺の上下する手を眺めながら言う。


「うん……、俺、七生の幸せを願ってたよ。
北条っていう大きなものも付いて、七生には俺という存在が足枷になるんじゃないかと思った。
愛するために離れる方がカッコイイしね。
でも、カッコよくても七生が幸せでも俺は思い出す、卑しくて、みっともないくらい、七生のキスも声も匂いも指の入る感触も擦れた膚も浴びてたい、何度も何度も欲しくなる。
七生が隠し事したこと辛かったよ?」

七生の顔を凝視すると前髪が片目を隠していた。
よく、見えるように前髪を掻き上げる。


「ばーちゃんに元気になってもらいたかったんだ……だから、最初はしゅーちゃんの突発的な出まかせで婚約したって嘘ついて、それがズルズル続いて……ばーちゃんが薦めた学校に入って、俺のせいで二郎がこんなにボロボロになるなんて、わからなかった。」

やっと、七生と話せたことに安堵する。


「そうだね、傷付いた。
一番辛かったのはその時に七生といられなかったこと。恋しい……って言えなかったこと。」

怒りも哀しみも全てはこの気持ちから始まってたってようやくわかった。


「俺だって傷付いた。
俺のこと忘れて安西とこに傾いて、挙げ句にこんな……!」

肩に触れてきた。
傷は塞がったが痕になっている。


「だって、七生が瞳子さんと婚約したから……俺のこと蔑ろにした。」



「……海外で暮らすって言ってたの覚えてる?」


「うん、」


「今のとこ、進学校でさ、そこで上位に入れば結構有利になるんだよね……。まあ、二郎が俺のこと忘れた時にはもう無意味だったんだけど……」

七生が、黙って転校した理由はそれだったのか。


「今は?」


「上位。」

七生の胸に飛び込んでいった。

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