《MUMEI》

彼は兵士達を眺めて、呟く。

「土岐氏の者でなければ、よい。即刻、引き返す」

武人の命に、兵士達が返事をした、

そのとき。

「屋形様!!」

鋭い男の声が飛んできた。

武人がそちらへ目を遣ると、兵士がひとり、彼の前へ現れた。

ひとりの幼子を、ともなって。

幼子は酷く、みすぼらしい格好をしていた。ぼろきれを身に纏い、長い黒髪は艶が無く、肌は泥で汚れていた。


しかし、汚れきった顔に浮かぶその双眸は、

この世のものとは思えぬ程に、不思議な光を宿し、

しっかりと、目の前にいる武人に向けられていた。


控えていた他の兵士達は、その幼子の姿を見、顔をしかめる。

「なんだ、その子供は」

「屋形様の御前ぞ!」

幼子を連れて来た兵士は、仲間の野次に怯むことなく、武人に深々と頭を下げ、言った。

「賊を捕らえる最中に、この子供を見つけました。恐らくは、ここの集落の生き残りかと…」

そこまで言うと、兵士のひとりが咎めるように叫ぶ。

「そんなもの、斬り捨ててしまえ。どうせ親も死んでしまっているのだ」

その声に重ね、他の者達も「そうだ、そうだ!」と煽った。


−−−男達の喧しい怒声の中、

武人と、その謎の幼子は見つめ合ったまま、微動だにしなかった。

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