《MUMEI》

そのうち、恰幅のいい兵士が進み出て、幼子の前に立ちはだかる。

兵士は興奮しているのか、爛々とした瞳でその子を睨みつける。

「お前が出来ぬのなら、俺が斬り捨てよう」

「退け!」と続けざまに一声怒鳴ると、幼子を連れて来た兵士はすっかり萎縮し、後ろへ下がった。


幼子は果敢にも、目の前の大男を見つめたまま、黙っていた。恐ろしくて声が出せない、といったふうではなく、ただ、じっと見つめたまま、泣き出すことすらしない。

その兵士は、幼子の態度が気に食わなかったのだろう。子供を睨みつけたまま、腰に差してある刀に手を添える。

その柄を握りしめ、鞘から刀を抜く。

それよりも早く、



「止せ」



低い地鳴りのような声が、辺りに響いた。

そこにいた一同がハッとして、声の主を振り返る。

兵士を制止させたのは、あの武人だった。

武人は幼子を斬り捨てようとしている兵士に、一瞥をくれる。

「下がれ」

ゾッとする程冷たい視線に、兵士は顔を青くした。なにも答えず、すすす…と身を引く。

再び、武人は幼子と向かい合った。

幼子は相変わらず、武人を見つめている。

その謎めいた双眸で。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫