《MUMEI》 しばらく腹を探り合うように、互いに見つめ合った後、 武人が先に、口を開いた。 「親は、どうした?殺されたか?」 静かな問い掛けに、幼子は反応しなかった。武人は気にせず続ける。 「身寄りはあるのか?」 また、幼子は答えない。ただ静かに馬上の武人を見つめている。 返事を待つ武人に向かって、その幼子を連れて来た兵士が「無駄かと存じます」と、言う。 「なにを尋ねても、がんとして口を開かないのです。この惨劇に、己を無くしているのか、もしくはもともと耳を患っているのかも…」 そこまで続けたとき、 武人がはっきりと、言った。 「聞こえている筈だ」 断定的な言い方に、兵士達は互いに顔を見合わせた。不思議顔の部下達をよそに、武人はニヤリと不敵に笑う。 「この稚児は、聞こえている。でなければ、このような目つきで、俺を見返す筈がない」 主の声に、兵士達は幼子を見つめた。 幼子は相変わらず、武人を見つめたまま立ち尽くしていた。その瞳は、やはり、なにか魔力を秘めたような、底知れない『強さ』を思わせる輝きがあった。 武人はフッとため息をつき、「稚児よ…」と目の前の幼子に呼びかける。 「答えたくなければ構わない。それよりも、お前に提案がある」 そこで一息置いて、 「俺と共に、城へ来るか?」 放たれた言葉に、兵士達が驚愕した。 幼子は、なにも答えず、ゆるりと瞬いた。 前へ |次へ |
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