《MUMEI》 武人は顔色ひとつ変えない幼子を見つめ、愉快そうに笑った。 「どうせ、行く宛てもないのだろう?ならば、俺に着いて来るといい。寝床と糧くらいは恵んでやる」 勝手を言い出した主に、動揺した兵士が「屋形様!!」と喚き出す。 「なにも、そこまでなさることは…」 「全く以って、その通りです」 「浮浪児など、放っておけばそれなりに生きていきましょう」 口々に反論する部下達を振り返ることもせず、武人は呻くように、呟いた。 「…誰に向かって意見している?」 その静か過ぎる抑揚に、恐ろしいくらいの怒りが込められていることに気づいた兵士達は、緊張した面持ちで口をつぐみ、武人の姿を見つめた。 武人は怯える部下達をものともせず、ただひたすらに幼子の顔を見つめ、 そうして、信じられない言葉を口にした。 「これは、『鬼』の子だ」 思いがけない主の台詞に、部下達は再び驚く。 「『鬼』!?」 「まさか、あの影に潜む一族の…?」 「この子供が?」 ざわつく部下達に言い聞かせるかのように、武人はいつになく声を張り上げて、叫んだ。 「いいか?この稚児は、『鬼』だ。『時を渡る術』を知る一族の、生き残りだ。これは、我々にとって、いずれ大きな力になる。それをみすみす逃すようなたわけが、どこにいるというのだ?」 皆、シン…と静まり返った。 前へ |次へ |
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